全国災対連ニュース №76

全国災対連ニュース 2011年10月24日 第76号
    復旧・復興の主人公は被災者
    全国交流集会に230人余が参加
 全国災対連と東日本大震災被災3県(岩手・宮城・福島)で構成する実行委員会は10月8日~10日、宮城県鳴子温泉「農民の家」で全国交流集会を開きました。被災3県をはじめ九州・中四国など遠方からの参加もあり、234人が集まりました。


 1日目の全体集会は、冒頭、今回の震災で亡くなられた方々を悼んで全員で黙祷をしました。全国災対連の大黒作治代表世話人(全労連議長)が主催者を代表してあいさつ。地元宮城の庄司かつ彦県民センター世話人が歓迎のあいさつ、来賓の高橋千鶴子衆議院議員(日本共産党)が国会情勢を交えたあいさつをおこないました。
「東日本大震災からの復旧・復興の課題と展望」
宮入興一愛知大教授が記念講演
 宮入興一・愛知大学教授が記念講演をおこないました。講演の要旨を紹介します。
 大震災の災害像の特徴をどう捉えるか
 今回の災害像の特徴について5つの特徴をあげました。
 ①超巨大複合災害 四川大震災、スマトラ大津波、チェルノブイリ原発事故が同時に発生したに等しい、歴史的、空間的、社会的に未曾有の超巨大複合災害だった。被害総額も阪神淡路大震災(約10兆円)の3~4倍とみられる。
 ②地方都市・農漁村型災害 東京一極集中のもとで労働力・資源・エネルギー・食料の供給基地とされ、過疎化・高齢化を強めてきた、地方都市・農漁村を一撃した大災害だった。地方行革・市町村合併で疲弊を深め、基礎体力が落ちた地域を再生するには、東京一極集中体制の是正が課題になる。なによりも弱者に対する心の行き届いた対応が必要だ。
 ③超広域・多様化災害 阪神大震災に比べ被災面積は8倍になる。死者・行方不明の99%は3県に集中しているが、被害は16都道県に及ぶ、広域・多彩な災害である。
 ④前代未聞の「原発震災」 炉心溶融事故による放射性物質の放出で、地球レベルの最悪環境汚染が起きている。原発周辺住民は流民化・棄民化させられようとしている。
 ⑤災害の長期化と跛行化 国の対応の遅れとまずさが、回復を長引かせ、立ち直りを困難にしている。被災者への対応にアンバランスが生じており、生活苦や倒産、地域経済社会の悪循環的衰退を助長している。
 「災害復興」の基本理念と東日本大震災の基本的問題点
 ①災害復興の基本理念-「人間復興」と「コミュニティの復興」 福田徳三(1874~1930・経済学者)は、関東大震災(1923年)の際、災害復興理念として「人間復興」を提唱した。それは災害によって破壊された「生存の機会の復興」、「生活・営業・労働機会の復興」が不可欠であり、道路や建物は「営生の機会」を維持・擁護するための手段に過ぎないと論じた。これは、戦後の憲法13条「人間の尊厳と幸福追求権」、第25条「生存権」とも底通し、共鳴しあっている。この「人間復興」が第一の基本理念であり、これを支えるべき人々の「絆の復興」、とりわけ「地域コミュニティと住民自治の復興」が不可欠である。
 「人間復興」の理念は、阪神大震災の際に掲げられた、経済成長・開発優先型の「創造的復興」とは対極にある。阪神では、「創造的復興」の名のもとに、平時なし得なかった市街地再開発、空港・港湾の整備、幹線道路など産業インフラの建設が実施された。その結果は、投入資金16兆円の9割が域外大手大企業の懐に転がり込んだ。反対に、被災地では資金が循環せず、地域経済は停滞したまま復興は遅れた。
②「東日本大震災復興基本法」の問題点 今回の大震災復興の基本的な理念と枠組みを構築する特別法として制定されたのが「東日本大震災復興基本法」だが、いくつかの重大な問題点をはらんでいる。同法の「基本理念」には「人間復興」の視点がほぼ完全に欠落しており、阪神で失敗した「創造的復興」を一段とエスカレートし、「単なる復興にとどまらない活力ある日本の再生」のために先導していくことが第一の理念とされた。また、復興推進のプロセスにおいて、国による「上からの復興」を押しつけようとしており、被災者や被災地の実情よりも国の方針を優先させられかねない。村井宮城県知事はその先導役を買って出ている。
 その一方で、「上からの復興」の押しつけを許さない状況や運動も生まれている。岩手、宮城、福島で、県民会議、県民センター、共同センターが組織され、県民意識調査、情報交流集会、対政府・自治体要求運動などが展開されている。自治体レベルでの住民自治組織や住民会議、地域懇談会など、被災者の声を反映した「下からの動き」も見逃せない。「上からの大企業本位・財界主導の復興」か「下からの人間本位・住民主体の復興」かという対抗軸が鮮明になってきた。
③東日本大震災にみる「災害資本主義」と「災害ユートピア」との相克 災害復興をめぐる対抗関係では、カナダのナオミ・クラインが、著書『ショックドクトリン』で、災害やテロなどの国民的ショックを利用した反動的政策の強行を「災害資本主義」と名づけて告発している。
 それにならって、東日本大震災への対応をみると、「トモダチ作戦」と称して自衛隊と米軍が連携強化をすすめた【災害ミニタリズム】。規制緩和、経済特別区、法人税引き下げ、消費税増税、市町村合併強制を狙う【災害ネオリベラリズム】。民自公の大連立、翼賛体制的な政治の台頭がみられる【災害ファシズム】をあげることができる。
 他方、国民の中に、新たな国民的連帯や社会・地域・家族の絆、コミュニティの再評価・見直しの機運が高まっている。しかし、災害資本主義との対抗軸を明確化するためには、「災害ユートピア」を「災害科学」へと深化させることが不可欠となろう。
 災害復旧・復興制度の「20世紀型」から「21世紀型」への転換の必然性
 巨大複合災害となった今回の大震災は、わが国の20世紀型復旧復興制度に対して、過去の経験や法制度にとらわれない、それらを超えたより根本的な反省と、21世紀型への転換を迫るものとなっている。
 ①「応急型救急原則」から「生存機会再生型支援原則」へ 従来は主に「災害救助法」を適用し短時間で通常生活に戻れるとの前提に立った対策で、基準も低い。今回の大震災は、半年経っても8万人以上が避難生活を余儀なくされている。グループホーム付き仮設住宅、災害公営住宅、個人住宅に転用可能な木造戸建て仮設住宅など、中長期的な生活・生業再建へのつなぎ施策が不可欠である。
 ②「公共施設原型復旧原則」から「生存機会再生型支援原則」へ 従来の復旧施策では、地盤沈下や液状化地盤の改良復旧、民間一般病院・診療所の復旧などが欠落しているか不十分である。
③「個人財産自己責任原則」から「地域共同社会再生原則」へ 被災者生活再建支援法が制定され、住宅再建にも活用可能になった。しかし、適用条件・金額などの問題がある。商工業者への生業支援は、はるかに見劣りする。今回の災害は、生活・生業・就労・コミュニティの存立基盤が一挙に破壊された。二重ローンの解消のための新たな制度の創設などが不可欠である。
④「成長・開発優先型復興原則」から「人間基盤復興原則」へ 阪神大震災で経験ずみの「創造的復興」は、被災地の疲弊とコミュニティの崩壊を助長する危険性が高い。下から、自治体全体の復興計画としてまとめ上げていく工夫と努力が求められている。
⑤「中央集権・官僚型復興原則」から「分権・自治型の復興原則」へ 被災者と被災地の実態に即した、分権・住民自治型の復興。そのための権限と財源の分権化が必要。今回、災害復興基金の創設が遅れており、一刻も早い設立が望まれる。
 東日本大震災からの復興の諸課題
①緊急の課題 原発震災の危機的状況への対応では、正確な情報の公開、避難住民に対して東電・国の責任を明確にし、賠償を果たさせること。
 長引く避難生活で、貧窮と病気、医療不足のために命を落とす「復興災害」が頻発している。居住環境の改善、所得保障、医療・介護・福祉スタッフの充実が緊急最優先の課題。
 今回のような巨大複合災害と復興の遅れのもとでは、再建の過程は一挙には進まず、二段階復興過程をとらざるを得ない。被災地からの人口流失を先ず食い止める必要がある。仮設の魚市場、加工場、店舗などを公費で建設・供与する。失業状態から脱するための災害復旧事業、失業保険の給付期間延長、失業扶助制度の新設など。この第一段に続き,第二段の本格復興につなげていくべきである。
 岩手県大槌町や陸前高田町では役所が全滅し多数の職員が犠牲になった。人材不足を補うためには,全国の自治体からの専門職員や一般職員の長期派遣、都市計画の専門家やNPOなどの支援も不可欠になっている。
②短期的な課題 過去の重い債務を負ったままでは、被災から立ち上がるのは困難。被災前債務の免除、凍結、買い上げ制度の新設と国の財源保障なしに三陸漁業の再生は不可能である。
 津波被害の特性もあり、農漁民、商工業者の弱小な経済力では生産基盤を自力で再建するには無理がある。国・県が公費で漁船や養殖施設を整備し、漁民や漁協に一定期間リースし、その後払い下げる制度を創設する。災害復興基金の活用も有効。
 住宅再建・市街地復興・復興、まちづくりの課題としては、被災者生活再建支援法の改正が重要。市街地復興の課題としては、高台移転(防災型)か現在地活用(減災)かなどを国が画一的に押しつけるのでなく、被災者自らが、まちの将来像と復興計画をつくり、国・県は財政的支援をする、これが分権時代にふさわしいやりかただ。
 財政問題では、復興構想会議や財界は、消費税増税を中心に所得税など基幹税の大衆増税を主張している。不要不急の公共事業の停止、法人税減税・証券優遇税制の中止、米軍への思いやり予算・政党助成金の廃止など、歳出削減を第一にし、残りは当面、国債発行で賄うべきだ。
(おことわり 被災地からの報告などは次号でお知らせします)